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金出武雄の「問題解決の7か条」

■第6回■
アナログとデジタルの彼方へ


【2006.12.25】

写真Computer science is becoming more physical。

コンピュータ・サイエンスは、もっとフィジカルなものになっていく、という標語がある。フィジカルという意味は、アナログという意味である。
コンピュータができてからしばらくの間、デジタルが優勢であったが、いまやフィジカルとくっつく時代となったということだ。

私が学生時代には、人はアナログ、つまり「連続的」な情報を処理する。コンピュータはデジタル、つまり「離散的」な情報を処理するから根本的に違うのだという議論があった。今では、そういう議論をする人はいない。

私はこう考えるのがよいと思う。
現実世界はアナログ世界である。アナログというのは、「連続性」という意味ではなく、「物理現象」を使っているという意味だと考える。
物理現象を使っているから「時間」を変えることができない。時間を早くしたり、遅くしたりはできない。
電流を2倍に早くすることも、熱伝導方程式の時間[T]を時計以外で測ることもできない。現実の[T]を変えることはできない。
実時間、リアルタイムというのは、時計の時間のことである。計算機屋は、リアルタイムを「速い」という意味で使っているが、本当はそうではない。リアルタイムというのは、時計の時間で起こっているという意味である。
計算機の上では、時間を速めたり遅くしたりできるが、我々のいる物理的世界では、それは不可能である。

デジタルでは、時間をいくらでも早くできる。単位も変えられ、精度を変えることもできる。現実の世界の、実時間で起こることとは関わりないぶん、有効な手段だった。デジタルは、物理世界を抽象化しすることでパワフルな計算力を持った。

デジタルの優勢の中で、最近、アナログが見直されてきている。物理世界がもつ多様性が着目されてきたからだ。
「ひも」も計算する。ひもの両端を持って垂らしたときにできるカーブは懸垂線と呼ばれる関数のカーブである。
スペインのバルセロナにあるガウディの建築物(サクラダファミリア)は、この懸垂線のカーブを逆につかって曲線を出しているといわれる。重力に逆らった建築、というわけだ。
その形がどうなるかを計算するにはある微分方程式を解く必要がある。しかしそんな計算をしなくても、ひもを垂らしてみればその形がえられる。ガウディはそうやって形をもとめた。
「ひもは微分方程式を解き、懸垂線を計算した」ということができる。これがアナログ計算という考え方である。
アナログ計算というのは、本来英語のAnalogousという言葉が示すように、調べたい元の現象(例えば流体現象)を、それと「相似」の現象(電気現象)に置き換えて問題を解くという意味であった。

アナログが注目されているということは、アナログ計算とデジタルの計算機とをうまくインターフェースすることにより、多くの可能性が拡がってくると考えられているからだ。
ゲノムのシークエンスなどはその好例となる。実際のDNA断片を使った実験によりゲノムの対応関係を調べ、コンピュータとつなげ簡単な画像処理によって反応をチェックする。まさにアナログ・コンピューティングといってよい仕組みだ。

現実世界はアナログだから時間を早くすることはできない。コンピュータの中はデジタルだから時間はどうにでもなる。これはどちらが有利かということではない。連続量と離散量などということにも意味がない。
ほとんどの方程式はアナログで書き、それをデジタルでセグメントに分けてコンピュータで実行する。それで答えが違うということはないはずだ。

アナログとデジタルが結婚することでコンピュータがフィジカルになる。

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