MEC Topへ前ページへ次ページへ


金出武雄の「問題解決の7か条」

■第2回■
できる学生-1


【2006.11.27】

写真 カーネギーメロン大学で25年コンピュータビジョンを教えてきた。毎年4人の学生を教えて、これまで100人ほどになるだろうか。このうち10人ぐらいは現在でも良い仕事をしている。10分の1である。
その中でも印象に残る生徒がいる。

1.思いついたらすぐやる
現在、コロンビア大学で教えているシュリー・ナイヤーは根っからのエンジニアだった。彼は、非常に具体的に物事を考えると同時に、何かしたいと思ったら、すぐにモノ(実験装置)を作ってしまう。
たとえば、ある物体に角度を変えてランプで照明を当て写真を撮る。その写真を合成することでその物体の形や性質が分かるという課題を出した。
彼は私に何の相談もなく、ホームセンターに走り、電球5個と安物のクリップ、木ぎれを買ってきてアーチを作り、簡単な実験装置を早速作り出す。
「電球は5ドルです」とか言って請求書を持ってくる。その早さと、実行力はたいしたものだった。
別のタイプの生徒もいた。
「こういう実験装置を作りたい」といって図面を持ってきて、これぐらいのお金がかかるが払ってくれるか、と聞いてくるタイプ。なかには、ネジ1個買ってきていいかを聞いてくる。
「私の仕事を見ていれば、どのくらいの金が支払えるか分かるだろう。1万ドルならちょっと待てと言うかもしれないが、千ドルぐらいまでなら払えないと言わないはずだ」と小言をいうが、これはダメなタイプである。
技術者は道具が何もかも用意されているところで仕事ができるとは限らない。どこかで適当な道具を探してきたり、改良して実験道具にしたり、持っている人に使わせてもらうこともある。その交渉技術も研究を進めるためには重要なのだ。その練習もしろというわけである。

2.簡単な例題で理論を作る
理論的に考えられるかも重要なことだ。
ランプの話で言えば、それぞれの方向から光を当てると、その方向と、物体の面の関係に気づく。これを、最も簡単な「例」にして「理論」を説明できることが重要となる。
「この簡単な例題が実現できるのだから、私がやろうとするもっと複雑なことも実現できる」ことを例証できるのが優れた生徒ということになる。
たとえば「シャノンの情報理論」。シャノンは情報を極限まで簡略化して、2つのうちから1つを選ぶということに気が付いた。2分の1の確率で情報を選んで相手に伝えることが、情報の一番簡単な例であることに注目した。そこに大発見が起こった。

科学や工学の基本は、世の中に起こっていることを簡単、省略、抽象化してみることだ。単純化の量が足りないと、難しくて理論にならない。一般的に言えることは、単純化、抽象化が進めば進むほど、美しく、鮮やかな理論ができる。単純化がちょうど目的に合致する適当な量であると、役立つ理論となる。
思い切って単純化できるかどうかが、できる人とできない人の差である。
しかしこれが難しい。
複雑からどんどん単純にしていくと、ある時点で「自明の谷」に落ちてしまう。もう当たり前、理論でない状態に達する。この「自明の谷」の崖っぷちの手前で留まり、元の問題の本質を昇華した形で残し、最も分かりやすい形で仕上げたものが、すばらしい理論であり、説明なのだ。

中学の幾何学で、補助線を頭に描いた途端に解けるようなものだ。補助線を発見しなければ図形問題を解くことはとても難しくなる。

できる生徒の条件はまだある。

                         [→次ページへ]

MEC Topへ前ページへ次ページへ